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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)11号 判決

原告 寒河江梅吉

被告 福島県選挙管理委員会

主文

被告が昭和三十年四月三十日施行された福島県内郷市議会議員当選の効力に関する訴外管野朔幸の訴願につき同年七月十五日為した裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は昭和三十年四月三十日施行された福島県内郷市議会議員選挙に立候補し三百八票の得票により最下位当選者として同年五月一日内郷市選挙管理委員会より当選の告知を受け且つその旨告示されたものである。然るに次点者訴外管野朔幸(福島県内郷市宮町町田十二番地)は右選挙に関し最下位当選人たる原告の当選の効力につき異議ありとして内郷市選挙管理委員会に法定期間内に異議申立を為し同委員会において昭和三十年五月二十六日右申立を棄却するや福島県選挙管理委員会に対し法定期間内に訴願をしたところ同委員会は同年七月十五日附を以て「内郷市選挙管理委員会のした前記決定を取消す、原告の当選を無効とする」旨の裁決をした。

然しながら右裁決は以下述べる理由により違法である。即ち、

(1)  原裁決は前記選挙における「管野タカユキ」と記載された投票(検甲第一号証)を右管野朔幸に対する有効投票なりとしているが、同選挙における候補者中に「齊藤隆行」なる者が存する以上前記投票は「管野朔幸」と「齊藤隆行」の何れに対して為されたものか不明であるからこれを「管野朔幸」に対する有効投票とすることはできない。

(2)  右管野朔幸に対する有効投票中に

(イ)  「カノクユキ」(検甲第三号証)

(ロ)  「かんのさくいち」、「カンノサクイチ」(検甲第五号証ノ一、二)

(ハ)  「カンノマサユキ」(検甲第六号証)

と記載された各投票が存在するが、(イ)の票はその記載文字自体から判読するもその何人に対する投票なりや極めて瞹昧であり、(ロ)、(ハ)等の票は誤字又は他事記入として当然無効とすべきであるに拘らず、これらを「管野朔幸」に対する有効投票と解することは牽強附会も甚しいものと云わなければならない。

(3)  原裁決は原告寒河江梅吉に対する有効投票中に存した「さがいよしを」と記載された票(検甲第二号証)を、候補者中に「佐川好男」なる者が存する以上両名の混記として無効なりと判断したが、これは前記(1)の判断と矛盾する、何となれば前記(1)の如く候補者の姓に重点を置いて判断するならば「さがいよしを」の票は原告に対する有効投票と判断さるべきであり、原裁決の如き解釈をとるならば前記(1)の場合も無効としなければならないからである。又仮に右投票が原告に対する有効投票と認められないとしてもこれは佐川好男と按分票とすべく無効とすべきではない。

(4)  他の候補者「吉田栄」に対する有効投票中に「さかい」又は「サカイ」「サカエ」と記した票が五票(検甲第四号証の一乃至五)あることは明らかであるが原告が「寒河江(さがえ)」という姓である以上右投票を「吉田栄」に対して為されたものと一方的に断定することは不当である。即ち、原告寒河江梅吉の姓は通常「サガイ」又は「サカイ」と呼ばれて居るのであるが元来「寒河江」と称する姓を「さがえ」と正確に読むことは極めて稀であつて地名である山形県寒河江市などは辞書にも振仮名を附してあり又「河」は「か」と読んでも誤でないことは「河川工事」を「かせんこうじ」と読むことによつても明らかである。内郷市は炭鉱町で知識の低い労働者の間においては文字を見ること少く原告の姓名が如何なる文字で書き現はされるかを知らず単に隣人の呼称に従つて原告を「さかい」「さかえ」等と呼んでいるのが通常である。又東北における「シ」と「ス」、「チ」と「ツ」の発音が明確に区別されていないと同様に関東北部特に茨城県においては「イ」「ヰ」「え」「ゑ」の発音はすべて「え」であることは言語学者が「音韻相通」の例として挙げるところであつて、「犬(えぬ)」「井戸(えど)」「芋(えも)」等と発音して「い」と「え」の区別が明確でないことは一般に認められているが福島県南部石城地方は隣接する茨城県との諸般の交流によつて影響を受け「い」と「え」の区別が正しく行はれず「さがい」又は「サガイ」と書きながら発音は齊しく「さがえ」「サガエ」であることは明らかな事実で、又濁点を省略することは中年以上の人々の古来の習慣であるから「寒河江」の姓は当地方においては「サカイ」又は「サカエ」と呼称されることは極めて普通のことである。なお又候補者吉田栄は常磐炭鉱労働組合の役員で通称吉田と呼ばれその名を知る者は少く、まして常磐炭鉱以外の一般住宅においてはあまり知られていない人であるのに反して候補者寒河江梅吉(原告)は昭和五年以来内郷市に住み野菜並びに雑貨商を営む傍ら昭和二十一年からは民生委員をも勤めてきたのでその姓は市民のよく知るところとなり通称「サガイ」又は「サカイ」と云われて来たものであるから「サカイ」「サカエ」又は「さかい」の投票は正に原告に対する投票として取扱はるべきであるのにこれらを吉田栄の有効投票として算えられたのは妥当でない。仮に吉田栄に対する有効投票であるとしても前記の如き事情によりこれは原告に対するものとも云い得るので正に按分さるべきものと云わねばならない。

(5)  以上の次第で管野朔幸に対する投票はその基本票数三百二票(原裁決により決定された)から「管野タカユキ」「カノクユキ」「かんのさくいち」「カンノサクイチ」「カンノマサユキ」と記載された各無効票を差引くと二百九十七票が基本票でこれに管野光義との按分票三、五四票を加算した三〇〇、五四票がその得票総数であるに対し原告の得票数は原裁決の決定した基本票三百四票に前記吉田栄との按分票二、一九票を加算した三〇六、一九票となるから計数上明らかに原告が当選人と決定さるべきである。

従つて被告のした前記裁決は違法であるからこれが取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の後記主張に対しては、

(1)  「カノクユキ」と記載された票を被告は上から第二番目の字は誤記として抹消されたもので第三番目の字は「ン」の字であり更に第四番目の「ノ」の下に「サ」が脱落したもので右票は「カンノサクユキ」と読まるべきであると主張するが、何人も右の票を一見するときは右の如き主張を肯認することはできない、即ち第二字目を抹消したものと見ることはできず、又第三字目は到底文字と認めることはできないのであつて結局右の票は何人の氏名を記載したのか確認し難いものとして無効と為すの外なきものと云わなければならない。

(2)  被告は「かんのさくいち」と「カンノサクイチ」の各票は何れも下の二字が「ゆき」若しくは「ユキ」の誤記として管野朔幸に対する有効投票なりと主張するが「かんの」又は「カンノ」という票については本選挙における候補者中には管野朔幸の他に管野光義なる者が存するのであるから姓に重点を置いて判断すれば何れの管野に投票したが不明であり名に着目すれば候補者中「大越貞一(さだいち)」及び「佐藤作蔵(さくぞう)」の二名が存するから何れに投票したかを判別することが困難なるものとして無効とさるべきである。

(3)  被告は「カンノマサユキ」なる投票も管野朔幸に対する投票として有効であると主張するが、姓においては前記二名、名については候補者中「根本正(まさし)」「工藤正雄(まさお)」「菅原政一(まさいち)」「吉田正義(まさよし)」「齊藤隆行(たかゆき)」等の何れとも見ることができるので前記同様右票は無効とすべきである。

(4)  被告は「サカイ」「サカエ」「さかい」等の票は吉田栄に対する有効投票であると主張するが、「寒河江」なる姓は「サガエ」と呼ぶのが正しいとしても通常近隣の者から「サカイ」又は「サカエ」と呼ばれていたことは事実であるばかりでなく、開票立会人は「さかい(サカイ)」又は「さかえ(サカエ)」の投票は原告に対するものとして取扱はれるべきであると主張した事実もあり、被告の右票の判断に関する理由は根拠がない。

又被告は、原告に対する有効投票中「サかイ」と記載した四票は第二字が平仮名の「か」であるから吉田栄に対する投票である(被告委員会は「さかい」「サカイ」等を吉田栄に対する、「さがい」「サガイ(エ)」等を原告に対する各有効投票というように濁点の有無によつて区別した)と主張し右票の存在することはこれを認めるが右各票の第二字目は平仮名の「か」ではなく片仮名の「ガ」の濁点が一つ欠けたものとして原告に対する有効投票と見るべきである。

(5)  被告は無効投票中「カノサクヌキ」「カフサユキ」「ユキ」「かん」の四票は何れも管野朔幸に対する有効投票であると主張し右各票の存在はこれを認めるが右各投票は選挙会、市及び県各選挙管理委員会において夫々無効投票と決定されこれに対して従来なんらの異議のなかつたものであるばかりでなく記載自体からしてもその何人に対する投票であるか判読の不可能なものであるからこれを有効投票とすることは妥当ではない。

と述べた。

被告指定代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、被告委員会のした前記裁決が違法であるとする原告の主張はすべてそのいわれなきものである。即ち、

(1)  「管野タカユキ」なる票は「管野」なる氏と「ユキ」という名の一部の記載が選挙人の「管野朔幸」に対する投票の意思表示と認められるので他に「タカユキ」という名の候補者の存することは原告主張のとおりではあるが右票は管野朔幸に対する有効投票と認められるべきである。

(2)  「さがいよしを」と記載された票は「佐川好男」なる候補者の存する以上原告に対する有効投票となすべきではない。

(3)  管野朔幸に対する有効投票中に(イ)「カノクユキ」(ロ)「かんのさくいち」「カンノサクイチ」(ハ)「カンノマサユキ」と記載された各票の存することは原告主張のとおりであるが、右(イ)の票の第二字目は当初間違つて書いた字を消したものと認められ「カンノクユキ」と判読できるから「サクユキ」の「サ」一字を脱落したものと見て管野朔幸に対する有効投票とするを相当と認める。又(ロ)、(ハ)の各票は候補者中に「かんのさくいち」とか「かんのまさゆき」と云う者は存在せず何れも管野朔幸の誤記とみて同人に対する有効投票と解するのが妥当である。

何となれば投票は何人かを選挙しようとする選挙人の意思を表現しようとする手段であるから、たとえ投票に記載された文字に誤字、脱字がありまた明確を欠く点があつても、その記された文字の全体的考察によつて選挙人は如何なる候補者に投票したかその意思を推断し得る以上これを有効投票として選挙人の投票意思を尊重すべきであるからである。

(4)  投票中「サカイ」(一票)「サカエ」(二票)「さかい」(二票)と記載された計五票は次の理由によつて吉田栄に対する有効投票とすべきが当然であつて原告に対する有効投票とする理由は全くない。

(イ)  本件選挙において選挙長宛に提出された立候補届出書には原告寒江梅告は「サガエウメキチ」と、吉田栄は「よしださかい」と各振仮名を附してある。

(ロ)  公職選挙法第百七十三条及び第百七十五条の二の規定による氏名掲示には、立候補届出書と同様、寒河江梅吉は「サガエウメキチ」、吉田栄は「よしださかい」と仮名を付けて掲示された。

(ハ)  選挙会における開票に先立つて行はれた各選挙立会人と選挙長との事前打合せの際「サカイ」と記載された投票についてカとガの違い、つまり濁点のある投票は濁点が一つあつても寒河江候補に対する有効投票とし、濁点のないものは吉田栄に対する有効投票とすることについて各選挙立会人間において異議がなかつたのであり、原告の選任した選挙立会人寒河江秋雄もこれに対しなんら異議を申出なかつた。

(ニ)  内郷市選挙管理委員会は五月二十六日本件異議申立に対する決定を行つた際原告の有効投票中にあつた「サカイ」と記載された投票を原告の得票から除外した(決定書理由第二項)。

(ホ)  内郷市の選挙人には言葉の訛として「イ」と「エ」の発音の区別の不明確なものが多く、このことは吉田栄の有効投票中に「吉田サカエ」と記載されたものが九票、「吉田サカヘ」と記載されたものが一票存在することからも明らかであり、従つて「サカエ」なる記載は吉田栄に対する有効投票と判断すべきものである。

(5)  原告に対する有効投票中に「サかイ」という「サ」と「イ」が片仮名で書かれ「か」が平仮名で書かれた投票が四票(乙第二乃至第四号証)含まれているが「か」の字が明らかに平仮名で「か」と記載されている以上吉田栄に対する有効投票と解すべきである。これらの投票は字体が幼稚であることから知識の低い選挙人の記載したものと認められるが候補者氏名掲示中「吉田栄」の振仮名が平仮名で書かれているため「サカイ」と書く心算で不用意に「か」の字を平仮名で書いたものと推断できるから「サカイ」と読むのが素直な読み方であつてこれを「サガイ」と読むことはできない。従つて右四票は原告の得票から控除さるべきである。

(6)  本件選挙会において無効投票と決定された四百九十四票中に管野朔幸に対する有効投票とすべきもの四票(左記(イ)乃至(ニ)検乙第一号証の一乃至四)がある。およそ選挙において選挙人が投票用紙に記載する氏名は通常候補者以外の者である筈はないから投票用紙に記載された文字が不完全な拙い文字であつたり或いは不明確であつても、運筆、筆勢、個々の文字の位置その他あらゆる観点から判定し、各候補者の氏名と照合して特定の候補者の氏名を表示したものと認められるときは当該候補者の得票とすべきことは立候補制度を採用している選挙においては当然のことと云わなければならない。従つて、

(イ)  「カノサクユキ」と記載された票は「カンノ」の「ン」の一字脱落であり当然管野朔幸に対する有効投票である。

(ロ)  「カフサユキ」と記載された票は「カフ」とは「カンノ」と書くべきを「ン」の点を充分に打たず直に「ノ」と接して書いたもの、又「サユキ」は「ク」の一字脱落と各推断されるからこれも管野朔幸に対する有効投票と認められる。

(ハ)  「ユキ」と記載された票は「サユキ」と判読できるから「サクユキ」の「ク」の一字脱落であつて、管野朔幸に対する有効投票と見て差支えない。

(ニ)  「カん」と記載された票は「」の字が普通の「の」の字より頭が若干出ているが全体を見ると「カんの」読むことができるから、この票は管野朔幸と管野光義の按分票とするのが相当である。

以上述べたところを総合すれば、管野朔幸の基本得票数三百二票に前記(6)の(イ)乃至(ハ)の有効票を加算すれば同人の基本得票数は三百五票であるが、これに前記(6)の(ニ)の票を管野光義との按分票とするとその票は九票となりこれを両人の基本得票(管野朔幸三百五票、管野光義三百七十八票)を基礎として按分すると管野朔幸には四、〇二票加算されて同人の得票総数は三九、〇二票となる。これに対して原告の得票は原裁決で三百四票とされていたが前記(5)の理由により四票を控除すれば三百票となるから管野朔幸の得票数よりも九、〇二票少くなる。従つて原告の主張は全く理由なきものと云わなければならない。(立証省略)

理由

原告が昭和三十年四月三十日施行された福島県内郷市議会議員選挙に立候補し三百八票の得票により最下位当選者として同年五月一日内郷市選挙管理委員会より当選の告知を受け且つその旨告示されたものであること、次点者訴外管野朔幸(福島県内郷市宮町町田十二番地)が右選挙に関し最下位当選人たる原告の当選の効力につき内郷市選挙管理委員会に異議申立を為し同委員会において昭和三十年五月二十六日右申立を棄却するや福島県選挙管理委員会(被告)に対し訴願をしたところ同委員会は同年七月十五日附を以て「内郷市選挙管理委員会のした前記決定を取消す、原告の当選を無効とする」旨の裁決をしたこと、以上の事実はすべて被告の明らかに争はないところであるからこれを自白したものと看做すべきである。

よつて以下に原告の主張について逐次判断を加える。

(1)  「管野タカユキ」と記載された票(検甲第一号証)は本件選挙において他の候補者中に「齊藤隆行」なる者の存在したことは当事者間に争のないところであるから、混合記名として無効とすべきであるに拘らずこれを有効とした被告の原裁決は誤つていると云わなければならない。

(2)  「カノクユキ」と記載された票(検甲第三号証)は第二字目は当裁判所のした検証の結果に依れば原告主張のような「タ」ではなく、一旦何等かの文字を記載したがこれを抹消したものと認めることができ第三字目「」は「ク」でなく「ン」と判読できるから右票は「カンノクユキ」と記載されたもので「サ」一字を遺脱した管野朔幸に対する有効投票と認めるに妨げない。「かんのさくいち」「カンノサクイチ」の各票(検甲第五号証の一、二)は何れも下の二字が「いち(イチ)」となつているが「ユ」と「イ」、「キ」と「チ」を明確に区別して発音若しくは記載せずむしろこの両者を混同することが東北地方南部における言語風習であることは当裁判所に顕著な事実であるから、右は何れも「ゆき(ユキ)」と記載すべきを「いち(イチ)」と誤記したもので従つて管野朔幸に対する有効投票と認めたことは妥当である。「カンノマサユキ」の票も記載全体から見て管野朔幸に対する投票と認めるに妨げないことは成立に争のない乙第一号証(内郷市議会議員選挙候補者氏名掲示)により本件選挙における立候補者中に「マサユキ」なる名を有する者の存在しないことからして当然であると云わなければならない。

(3)  「さがいよしを」なる票(検甲第二号証)は候補者中に「佐川好男(さがわよしお)」なる者の存することが前記乙第一号証により明らかである以上前記(1)と同一理由により同人に対する有効投票とできないことは当然と云わなければならない。従つて右票を「佐川好男」と原告との按分票とすべきものではないからこの点に関する原告の主張は採用できない。

(4)  本件選挙における立候補者吉田栄に対する有効投票中に「サカエ」(二票)「さかい」(二票)「サカイ」(一票)と記載された票が合計五票(検甲第四号証の一乃至五)存することは当事者間に争がなく、その各票の内訳数が右の如きものであることは検証の結果により明らかである。そこで次に右の票の効力について考える。

証人箕輪栄治、折笠正松、寒河江秋雄、柴山傑、猪苅徳松の各証言を総合すれば、原告寒河江梅吉は内郷市において青果物店を営んでいる者であるが同人を知る市民は通常同人を「さかえ」さんと呼び「さがえ」と正しく呼称するものは極めて少く、又同地方においては「え」と「い」とを明確に区別して発音しない風習のある事実を認めることができる。被告は本件選挙の施行に際しては候補者中に「寒河江梅吉(原告)」と「吉田栄」とがあり、前者は立候補届出書に「サガエウメキチ」と、後者は「よしださかい」と夫々振仮名を附してあるので「さかい(サカイ)」なる記載の投票については濁点の有無によりその帰すうを判別することとしたと主張し、成立に争のない乙第一号証によればその主張事実を認めることはできるけれども、原告寒河江梅吉に対する通称が前記認定の如きものである以上前記吉田栄に対する有効投票中の五票は正に原告と吉田栄との双方に按分さるべきものと云わなければならない。

次に被告は原告に対する有効投票中「サかイ」と記載された四票(乙第二乃至第五号証)は右吉田栄に対するものとして原告得票中から控除さるべきであると主張し、右票の存在することは当事者間に争のないところであるが、成立に争のない乙第二乃至四号証によれば右各票はすべて「サかイ」と記載され第二字目は平仮名の「か」であるのか片仮名の「ガ」の濁点が一つ足りないものか必ずしも明確とは云えないけれども記載全体から判断すると片仮名の「ガ」と認めるを相当とし結局原告に対する有効投票と認められるから被告のこの点に関する主張は理由がない。

(5)  次に被告の主張する前記(6)の(無効投票中管野朔幸に対する有効と認めらるべきもの四票ありとの)点について判断するに、右各票の存在することは原告のこれを認めて争はないところでありその記載は検証の結果によれば「カノサワヌキ」と認められる票は「ン」を脱落し「ヌ」は「ユ」と書くつもりであつたものと推定されるから管野朔幸に対する有効投票と認めるを妥当とするが他の各票「カフサユキ」「ユキ」「カン」と記載された分は何れも何人に対する氏名記載であるか不明であつてこれを無効とするのほかはない。

以上の事実認定に基き原告と管野朔幸との各得票を計算すれば前記(4)認定の五票は吉田栄と原告との按分票となるところ、成立に争のない甲第八号証及び前記認定によれば吉田栄の基本票は三九〇票から(4)の五票を控除した三八五票でその按分票三、三三票中には原告との按分票の含まれていないことは弁論の全趣旨により明らかであり、又原告の基本票数が原裁決により三〇四票であることは成立に争のない甲第三号証によりこれを認めることができるから、原告の得べき按分票は二、二〇票で総計三〇六、二〇票となるのに対し管野朔幸の得票は前記甲第三号証によれば三〇五、五五票であるところ当裁判所の前記認定により基本票及び按分票において結局なんら異動を来さないこととなる(「管野タカユキ」は無効となつたが「カノサクヌキ」が有効と認められた)ので原告の得票は管野朔幸よりも〇、六五票多いこととなる。

従つて原裁決は当選の効力の判定を誤つたものであつて違法であるからこれを取消すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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